2015年7月2日木曜日

Skinware:TRUNKマガジンvol.6 デザイナー可児ひろ海インタビュー記事

『TRUNK』06号で連載中、Skinwareデザイナー可児ひろ海の連載インタビュー『JOURNEYS OF AWARENESS』。
今回のテーマは「ルーツをたどれば、ボタニカルとともに生きる私たちがいる」。

訪問先のブルックリン、そして祖父母の家で、また関わる周りのクリエイティブな友人たちを通じて、
ボタニカルの持つ力を感じ、その美しさと可能性に気づかされたエピソードをご紹介。

日本人として古くから馴染みのある植物の恵みを、現代でも大切に受け継いでいきたいものです。





05 ルーツを辿れば、ボタニカルとともに生きる私たちがいる

「植物園でお花見をしよう!」今年5月、仕事で訪れたニューヨーク滞在中、そんな思いつきで訪れた「ブルックリン・ボタニカルガーデン」。広大な敷地内には日本庭園もあり、ちょうどこの時は桜が咲いていた事もあって、お花見にはぴったりのタイミングだったのです。園内に入ったとたんに感じたのは、植物からもたらされる生き生きとしたエネルギー。海外出張の緊張した心も和らぎ、樹々や花々の優しい気に満たされました。自分のルーツが植物と近くにあったということに気がついたのは、それから数日後のことです。

幼い頃を思い出させる美しく強いカキツバタ 
帰国後すぐ、祖父の法要があり、岐阜を訪ねる機会がありました。幼い頃はよく遊びに行った、懐かしい祖父母の家。家の前には田んぼがあってその隅には、紫色のカキツバタが咲き乱れていました。誰かが植えたものではありません。まるで人の営みに寄り添うように、何年も前から自生しているのだそうです。
そんな美しくも強いカキツバタを見て思い出したのは、数年前になくなった祖母の姿。彼女は毎年5月になると、旬の花であるカキツバタをよく活けていました。ふだんは離れ離れ暮らしている親族が一堂に集まる時期にぴたりと合わせるように、祖母が好きだった花が満開になるなんて。花を見るだけである人を思い出させる植物は、とても人に近い存在なのだと実感しました。
祖母と植物には、もうひとつ思い出があります。祖母と植物には、もうひとつ思い出があります。祖母と植物には、もうひとつ思い出があります。祖母は田舎暮らしでしたが、短歌や書道、活け花など、日本文化を愛する女性でした。そんな彼女が亡くなる数週間前、偶然訪ねた私に、葵で染めたシルクのスカーフをプレゼントしてくれたことがあったのです。当時は深く考えませんでしたが、祖母なりのメッセージが込められていただのかもしれません。
偶然にも、祖父が亡くなったのもカキツバタが咲く頃。岐阜の旅は、幼い頃に見た風景を思い出し、懐かしい気持ちに包まれるとともに、植物の存在をより強く意識するきっかけとなったのです。
  
植物の力を求めるのは人間にとってごく自然なこと
今、Skinwareでは「ボタニカルダイ」という植物染めによるウエアを展開しています。これは植物から抽出した染料をタンパク質で生地に吸着させる、新しい染色技術。従来の植物染めよりも色落ちが少なく、植物本来の持つ鮮やかな発色を実現できるのが特長で、ヒーリング効果も期待できます。
私がボタニカルダイを始めたきっかけは、かつて日本人女性が着用していた肌襦袢の染料が茜だったと知った事。薄紅色に染まった下着は美しいというだけでなく、茜には女性の身体を温める効果があることを、昔の人はちゃんと分かっていたのです。色を楽しむだけでなく、効能を求めて植物染めをしていたその知恵に驚かされました。四季折々の自然の中に暮らしていた日本人だからこそ、植物をうまく生活に取り入れていたのでしょう。先代の人々が大切にしてきたそんな素晴らしい技術を、より多くの人に楽しんでもらいたくて、現代版植物染めのボタニカルダイに行き着いたのです。
おりしも、私のまわりでも、植物染めや花のアートフォトなど、ボタニカルの素晴らしさに気づき、発信している人たちが増えています。たとえば、原料に徹底的にこだわった「oltana」のスキンコスメ。植物の力を引き出す技術を熱心に研究している一方で、デザイン性も追求している、素敵なブランドです。オーガニックコスメが人気の「SHIGETA」は、いい素材だけを使ってモノをつくり、クオリティを高く保ちつつ価格を抑える努力も惜しみません。両者とも、「この値段の化粧品を作りましょう」というマーケティングが入り口ではなく、「こういうものを使いたい、つくりたい」という情熱が、商品開発のスタート地点になっている。消費者としては安心して使えるし、作り手としてもその姿に深く共感を覚え、励まされています。また、友人でもあり敬愛するフォトグラファー、マーク・ヴァサーロは、長年花の写真を撮り続けており、作品を見るたび、その官能的な美しさに心を打たれます。
こんなふうに、ここ数年、ボタニカルはファッションやインテリア、芸術にも取り入れられることが多くなりました。ともすれば、たんなるトレンドにも見えてしまいますが、実は、私たちが植物の恵みを求めるのは、今に始まったことではありません。日本人は昔から、山や海、風や木々に神が宿ると崇めていたし、あるときは薬草を民間療法に取り入れ、あるときは植物染めの着物を着て、植物から多くのものを享受してきたのです。植物から与えれるインスピレーションやエネルギーは、計り知れないもの。私たちはこれからも植物に助けられ、生きていくのだと思えてなりません。



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